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さくひんのしゅじんこうとしんりのかげ
作品の主人公と心理の翳
宮本 百合子
「帝国大学新聞」1941(昭和16)年6月30日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,505 字 · 6 页
作家というものは一定の年齢になると、例えば「怒濤」の「わたし」のような人物をとおしてエロティシズムをも描きだしてみたくなるものなのだろう。以前には、北陸の魚と女性の青光るエロティシズムを正面から描いた室生犀星氏が、最近の「蝶」で、父親という一応熱気をさましたような立場から少女たちの身のそよぎを充分官能をもって再現しているように。
室生氏の場合は、作者の好みが多分に働いている。そういう好みが、文学のこととして含んでいる問題は別として、この作者はそういうとりあわせが好きなのだ。だが、丹羽氏はどうなのだろう。
今の時代は、小説が若々しい主人公たちを必要としていそうだのに、実際の作品では何となし老人が登場して来ているところには、考えさせられるものがある。火野氏が『中央公論』七月号に発表している「土鈴」は『改造』の「神話」よりずっとテーマとして高い複雑な人間交渉のモメントが捉えられているのだが、ここでも作者は息子の荘太郎は従において、代官神川平助を中心においている。神川平助の性格でもあるのだが、年齢が語る幾歳月の生活感情の習慣が、代官神川の農民救済の善意を独断なものにして、そこからの悲劇がかもされてゆく。