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さっかのせいかつ
作家の生活
横光 利一
1934(昭和9)年 4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,158 字 · 9 页
しかし、何といっても、作家も人間である以上は、一人で一切の生活を通過するということは不可能なことであるから、何事をも正確に生き生きと書き得られるということは所詮それは夢想に同じであるが、私たちにしても作者の顔や過去を知っているときは、もうその作家の作物に対して殆ど大部分正確な批判は下せていない。殊に、作家の顔がその作物を読む場合に浮び出しては、おしまいである。田舎にいてまだ人に知られていない作者で、よく文壇を動かすことのあるとき、都会へ出て来ても依然として動かしつづけているとしたら、よほどまれなその者は人物だと見てもよいと思う。
しかし結局、身辺小説といわれているものに優れた作品の多いことは事実であり、またしたがって当然でもあるが、私はたとい愚作であろうとかまわないから、出来得る限り身辺小説は書きたくないつもりである。理由といっては特に目立った何ものもない。ただ一番困難なことを私はやりたくてならぬ性質なのである。
もちろん、身辺小説も困難なことにおいてはそう違わないと思うが、人それぞれの性質によって困難の対象は違うものとしなければならぬなら、私にとっての困難はやはり身辺小説だとは思えないので、こつこつやっているうちに幾らかはなろうと思っている。