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かじつ

佳日

太宰 治

「改造 第二十六巻第一号」改造社、1944(昭和19)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,912 字 · 30 页

青空文庫

大隅君だって、小坂さんの御家庭を尊敬しているさ。君以上かも知れない。だから、なおさら、てれているんだよ。大隅君は、もう、いいとしだし、頭髪もそろそろ薄くなっているし、てれくさくって、どうしていいかわからない気持なんだろう。そこを察してやらなければいけない。」まことに、弟子を知ること師に如かずであると思った。「表現がまずいんだよ。どうしていいかわからなくなって、天下国家を論じて君を叱ってみたり、また十一時まで朝寝坊してみたり、さまざま工夫しているのだろうが、どうも、あれは昔から、感覚がいいくせに、表現のまずい男だった。いたわってやれよ。君ひとりをたのみにしているんだ。君は、やいているんだろう。」

ぎゃふんと参った。

私は帰途、新宿の酒の店、二、三軒に立寄り、夜おそく帰宅した。大隅君は、もう寝ていた。

「小坂さんとこへ行って来たか。」

「行って来た。」

「いい家庭だろう?」

「いい家庭だ。」

「ありがたく思え。」

「思う。」

「あんまり威張るな。あすは瀬川先生のとこへ御挨拶に行け。仰げば尊しわが師の恩、という歌を忘れるな。」

四月二十九日に、目黒の支那料理屋で大隅君の結婚式が行われた。