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かじつ
佳日
「改造 第二十六巻第一号」改造社、1944(昭和19)年1月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,912 字 · 30 页
やはり私たちと大学が同期であって、誰よりも気が弱く、私たちはいつもこの人の煙草ばかりを吸っていた。そうしてこの人は、大隅君の博識に無条件に心服し、何かと大隅君の身のまわりの世話を焼いていた。大隅君の厳父には、私は未だお目にかかった事は無いが、美事な薬鑵頭でいらっしゃるそうで、独り息子の忠太郎君もまた素直に厳父の先例に従い、大学を出た頃から、そろそろ前額部が禿げはじめた。男子が年と共に前額部の禿げ上るのは当り前の事で、少しも異とするに及ばぬけれど、大隅君のは、他の学友に較べて目立って進捗が早かった。そうしてそれが、やがて大隅君のあの鬱然たる風格の要因にさえなった様子であったが、思いやりの深い山田勇吉君は、或る時、見かねて、松葉を束にしてそれでもって禿げた部分をつついて刺戟すると毛髪が再生して来るそうです、と真顔で進言して、かえって大隅君にぎょろりと睨まれた事があった。
「大隅さんのお嫁さんが見つかりました。」と山田君は久しぶりに私の寓居を訪れて、頗る緊張しておっしゃるのである。
「大丈夫ですか。大隅君は、あれで、なかなかむずかしいのですよ。」大隅君は大学の美学科を卒業したのである。