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ぞくしゅう

俗臭

織田 作之助

「海風 第五巻六号」海風社、1939(昭和14)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,630 字 · 70 页

青空文庫

「へえ。――」

ありのまゝに言った。もう一度、一生出入り差止めでも何でもしゃがれと尻をまくった気持だった。この所謂度胸は伝三郎の大いに得意とするところである。酔った時に概ねあらわれるのだが、この時は、この頃頓に増して来た政江の威厳に圧されたのであろう。この度胸に就て一言するならば、例えば好んでやるオイチョ博奕に於て、彼の度胸は非常に高いものにつくのだ。これは彼のしば/\誇張するところのものだ。博奕での損を大袈裟にいうのを、伝三郎は非常に好むという癖がある。彼は近頃肥満して来て、大旦那の風格があると己惚れているのだった。

さて、その時、政江の顔に微笑が浮ぶに及んで、伝三郎の度胸はやっと報いられた。――伝三郎がわざ/\呼ばれて千恵造のことを訊ねられたのには無論訳があった。その頃、前述の商工会議員の長男との縁談が持ち上っていた。

「千恵さんがあんな女と夫婦やということが知れると聴合せの工合が悪いから」どうしても別れさゝねばならぬと政江は意気ごみ、伝三郎なら、手紙の一本位は来てるし居所は知ってるだろうと推測したのである。

「御尤も」と伝三郎は相鎚打った。内地にいるのなら兎も角、朝鮮にいる男のことが何で縁談のさまたげになるようなどとはこの際いうまじきことである。