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ぞくしゅう

俗臭

織田 作之助

「海風 第五巻六号」海風社、1939(昭和14)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,630 字 · 70 页

青空文庫

「姪の婚礼の邪魔しよる。あいつは社会主義者や」

と伝三郎はいった。この言は仲々政江の気にいった。伝三郎が千恵造の弁護をしているという誤解は之で解けた。出入は完全に許された。この時以後、政江は千恵造のことを話す時、社会主義者という形容詞をつけるのを忘れなかった。

一体に、伝三郎は仲々比喩の才に富んでいて、彼の用語には興味あるものが少くない。例えば、淡白なお菜のことを、「金魚の餌みたいなもん喰わしやがって」、商人の談合のことを、「いちゃ/\と〇〇〇してけつかる」などは、彼でなくてはの感がある。「社会主義者」というのもこの金魚の餌の類である。

さて、政江の依頼によって、伝三郎が千恵造に離縁勧告の手紙を出すことに話がきまって、この意義ある半年振りの訪問は終った。伝三郎は字が書けぬので、番頭に手紙を代筆させた。社会主義者やと言うたってくれと、伝三郎が念押すと、番頭はその言葉は不穏当だといった。番頭はこの頃男女間の道に分別ついて、千恵造の駆落ちにひそかに同情しているのだ。伝三郎は番頭の言葉をきかなかった。社会主義者という字をいれるのは政江の希望であるからだ。