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ぞくしゅう

俗臭

織田 作之助

「海風 第五巻六号」海風社、1939(昭和14)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,630 字 · 70 页

青空文庫

酒の勢いも手伝って、権右衛門の声は乱暴に高くなった。

「おん者らわしの兄弟のこと悪う抜かす権利がないわい。千恵造がいかん言うようなとこイ何も娘をやらんでもえゝ。厚子を着た商売人なら千恵造とも珍宝とも、ギャア/\いわんやろ。商売人にやったらいゝ。商売人ほど――」

以下、先刻考えた文句である。政江は後の方がもう耳にはいらなかった。政江は娘のために泣いた。何という親であろう。夫のために泣いた。この人はこんな無茶をいう人ではなかった。が、彼女は自分の為に一層多く泣いた。権利という言葉がこたえたのだ。

「私に何で権利がおまへんのです?」

泣き叫んだ姿を見て、人々は今後政江がヒステリーだといえる事を一寸喜んだ。

「まあ/\嫂さん」

「兄さん、あんたも」

仲裁する人はいずれも幸福な顔付きであった。この母がこんなに憎まれていると知ったら娘たちは何と思うだろうか。娘たちにはその理由は分らぬだろう。が、理由は簡単だ。夫権右衛門を百万長者にした内助の功績の上に余りにどっかりと腰を据え過ぎたからだ。権右衛門は金をつくるのが目的だったが、政江はその後のことが目的だった。男と女の野心の相違である。