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ぞくしゅう

俗臭

織田 作之助

「海風 第五巻六号」海風社、1939(昭和14)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,630 字 · 70 页

青空文庫

て、板場なんかに雇われて人に頭の上らぬことするより、よしんば夜店出しにせよ自分の腕一本で独立商をする方が何んぼうましか、人間人に使われる様な根性で出世出来るかと、いいきかせた。持論である。

半月も経った頃だったろうか、確か上塩町の一六の夜店の時だった。人の出盛る頃に運悪い夕立が来て、売物の扇子を濡らしてはと慌てゝしまいこみ、大風呂敷を背負ったまゝあるしもたやの軒先に雨宿りした、が、何の因果かそこは妹のまつ枝が女中奉公している家だった。どうしてそうと知ったのか今は忘れた。がとにかく、何ヶ月振りかのまつ枝の顔をみた記憶はある。立ち話、という程でもないが、二言三言口もきいたであろうか。まつ枝の弟にあたる伝三郎が、「姉やん、えらい良えとこに居ちゃるんやのう」と言った言葉に記憶がある。かなり立派な構えのしもたやであったに違いない。そのとき、まつ枝の顔に困惑に似た表情が浮んだのを見逃さなかった。が、それよりも、こちらの方が困惑していた。夜店出しの兄弟をもってると知れば、まつ枝も我が主人に肩身も狭まかろう、夜店出しなどするものではない。――俄か雨に祟られたみじめな想いも手伝って、しんみりと考えた。