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ぞくしゅう
俗臭
織田 作之助
「海風 第五巻六号」海風社、1939(昭和14)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,630 字 · 70 页
現にそこを引き払う時、払った金が所持金の大半で、残ったのは回漕店を止める時貰った十円にも足らぬ金だった。二人の口を糊して来たとはいえ、結局、冷やしあめ屋と扇子屋をやっただけ無駄となった訳だ。伝三郎はこれを機会に、生国魂前町の寿司屋へ住込みで雇われたので、料理衣と高下駄を買えと三円ばかり持たしてやった。それで所持金は五円なにがしとなった。
伝三郎を寿司屋へ送って行った帰り、寺町の無量寺の前を通ると、門の入口に二列に人が並んでいた。ひょいと中を覗くとその列がずっと本堂まで続いている。葬式らしい飾物もなし、説教だろうか、何にしても沢山の「仁を寄せた」ものだと、きいてみると、今日は灸の日だという。二、三、四、六、七、の日が灸の日で、その日は無量寺の書き入れ日だっせとのことだった。途端に想い出したものがある。同じ宿にごろ/\している婆さんのことだ。どこで嗅ぎつけて来るのか、今日はどこそこで何んな博奕があるかちゃんと知っているらしく、毎日出掛ける。一度誘われて断ったが、その時何かの拍子に、婆さんはもと灸婆であったときいた。それを想い出したのだ。宿に帰ると早速婆さんを掴まえて、物は相談だが、実は、おまはんを見込んで頼みがある。