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ぞくしゅう

俗臭

織田 作之助

「海風 第五巻六号」海風社、1939(昭和14)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,630 字 · 70 页

青空文庫

てしまった。名目は抵当物品ということにした。松田が訴訟を起されて負け、マツダランプから製品を押えに来たが、権右衛門の抵当物品故手を触れる訳に行かなかった。困り抜いたマツダ側と交渉した時の権右衛門の押しの強さには、松田もあきれてしまった。結局、マツダ側は、マツダランプ並の値で買取らされてしまった。放って置けば「マツダ電球」なる粗悪品が流布し、マツダの信用にかゝわるという弱味だ。その時の儲けの幾何かを口銭として松田に与えたその残り、即ち権右衛門の純利益が七百円だったのだ。――

この話をきかされた時、政江が如何に権右衛門を頼もしく思ったかは、想像に難くないであろう。彼女は権右衛門に希望をかけた。婚礼の翌日、彼等が食べた昼食は、麦飯に塩鰯一匹であった。大阪では節分の日に麦飯に塩鰯を食べるのが行事の一つと成っている。婚礼の日は節分だったから、つまり一日延ばして売れ残りの安鰯で行事をすませた訳だ。が、この行事はその日のみに止らず、その後日課となった。六百円から十万円貯めるまでの苦心中、彼女が誇って良いのはこの一事である。最近伝三郎がこの行事を見習っている。が、彼は鰯が好きだから、むしろ贅沢になる。