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ぞくしゅう

俗臭

織田 作之助

「海風 第五巻六号」海風社、1939(昭和14)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,630 字 · 70 页

青空文庫

しかも東京生れの、言葉使いの歯切れよい、分に過ぎた女房であったが、千恵造は兄の命ずるまゝに従った。破産した実家へ妻を帰らすに就て、彼は全く意久地なく振舞った。暫く経ち、商用で名古屋へ行った時、中村遊廓で、妻の妹に出会った。下ッ端だったが、彼女は蒲田の女優だったのだ。二三度、女中の役で出ているのを見に妻と一緒に常設館に行ったのも、ついこの間の事だ。女郎になっている義妹と床を同じくして一夜を明かした時千恵造が発揮した人間味に就ては記述をさける。大阪に帰ると、彼は道頓堀や千日前のカフェーを飲み歩いた。肺が悪く、一度三合許りの血を吐いたが、翌日もカフェー遊びはかゝさなかった。酔えば女給を相手に何ごとかをぼそ/\と愚痴るのだ。毎夜必ずビールを五六本、酒を五六合、チャンポンにのんだ。それ位のんでも大きな声で物もいえぬ程気が優しく、働く女への想いやりもあるようで、あまり好男子ではなかったがあちこちでもてた。千日前楽天地(現在歌舞伎座)横町のカフェー喜楽の年増女給とねんごろになり、宝塚旧温泉で関係を結んだ。春美といって二十六歳、かつて某浪花節寄席の持主の妾をしていたことがあり、旦那は南五花街の遊廓で誰知らぬ者のない稀にみる漁色家で、常に春画春本淫具の類を懐中にしている男であると、女は何を思い出したのか何もかも千恵造に打ちあけ