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しゅぜんじものがたり

修禅寺物語

岡本 綺堂

「文芸倶楽部」1911(明治44)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,737 字 · 26 页

青空文庫

)

夜叉王 ええ、騒がしい。鎮まらぬか。

(これを聴きて春彦は控える。楓は起って蒲簾をまけば、伊豆の夜叉王、五十余歳、烏帽子、筒袖、小袴にて、鑿と槌とを持ち、木彫の仮面を打っている。膝のあたりには木の屑など取り散らしたり。)

春彦 由なきことを言い募って、細工のおさまたげをも省みぬ不調法、なにとぞ御料簡くださりませ。

かえで これもわたしが姉様に、意見がましいことなど言うたが基。姉様も春彦どのも必ず叱って下さりまするな。

夜叉王 おお、なんで叱ろう、叱りはせぬ。姉妹の喧嘩はままあることじゃ。珍らしゅうもあるまい。時に今日ももう暮るるぞ。秋のゆう風が身にしみるわ。そちたちは奥へ行って夕飯の支度、燈火の用意でもせい。

二人 あい。

(桂と楓は起って奥に入る。)

夜叉王 のう、春彦。妹とは違うて気がさの姉じゃ。同じ屋根の下に起き臥しすれば、一年三百六十日、面白からぬ日も多かろうが、何事もわしに免じて料簡せい。あれを産んだ母親は、そのむかし、都の公家衆に奉公したもの、縁あってこの夜叉王と女夫になり、あずまへ流れ下ったが、育ちが育ちとて気位高く、職人風情に連れ添うて、一生むなしく朽ち果つるを悔みながらに世を終った。