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にせけいじ

偽刑事

川田 功

「新青年」1926(大正15)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,368 字 · 15 页

青空文庫

併し、気の故か彼女の美しい輝の顔に、不安の影が颯と通った様に思えた。

「いや、別にどうしたと云う訳でもありませんが……これは甚だ失礼な事かも知れませんが、少しお間違いをなさって被居るんじゃないかと思ったもんですから、一寸お尋ねして見たいと思った丈けなんです」

しどろもどろではあったが、貴婦人に対する礼儀は失って居ない積りで云ったのであった。

併し之れ丈け云って了うと、今迄持って居た探偵眼を誇りたいと云う気分や、こうした美しい婦人の秘密の鍵を握って居ると云う好奇心や、何か奇蹟的に邂逅しそうな卑劣な野心などは、此時全く姿を潜めて了って、依然不安と後悔の恐ろしい様な予感とで心は乱れて居た。

「私が何か不都合でもしたと被仰るんですか」

彼女は忽ち興奮した。険しい眼には挑戦の意気込みが現われた。こうなると、先刻自分が明瞭と見極めた事実すら、何だか曖昧なものに成った様な気もしだした。

「いやそう云う訳ではないんですが……」

言葉に窮した。初めから全然取消して了いたくなった。自分で自分の心を脅かして恐怖心を募らせ出した。併し女は依然として興奮して居った。

「貴下は一体どなたです。