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びぜんてんいちぼう
備前天一坊
江見 水蔭
「現代大衆文学全集」平凡社、1928(昭和3)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,511 字 · 25 页
諦めろッ」
参謀たる奥野後良、もう逃げ腰。
「や、それもそうだ。命あっての物種だ」と駒越左内も臆病風。
九兵衛は又家の大事と。
「どうか少しも早く御立退きを願いまする。お預かりの百両は、宿賃を差引いてお返し致しまするで、や、どうかそうなさった方がお互いの身の為。死んだ尼さんの後葬は、必らず当家で致しまするで」
グズグズ云ったら尼を毒殺の一件。訴人するという脅かし文句をチラつかしたので。
「や、しからば我等。立退き申す」
こうなると九兵衛の欲張り、高い宿賃を差引いて、僅かに三十両ばかり返した切。
三人はそれどころでなく、夜陰に乗じて西中島を出立。それからどこへ行った事やら、再び、岡山へは来なかった。
それを西大寺越の峠道に、源之丞その他が待伏せして斬殺したという説があるが、これは取らぬ。
有斐録に『出羽帰り候て御前に出で、云われ候は、殊の他御鬱ぎ遊ばされ、あれ程の事御心付き遊ばされずや、と申上げらる』とある。
金三郎、切腹覚悟の上にて、もう一度居据り直したらば、あるいは本統に召抱えられたかも知れぬので、その胆力試験に落第した為に、備前天一坊は失敗に終ったのかも。