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きずだらけのあし
傷だらけの足
宮本 百合子
ふたたび純潔について
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,697 字 · 20 页
その小説の主人公の若く美しい妻は、自主的に解放されているというよりも、夫となっている主人公に、はじめ、冷たく蹂躪させた露通な性を、物にかえている。夫の苦痛はそこからはじまっている。未開なバリ島の性の祭典には、けがされない性の陶酔があり、主人公のところに東京のひきさかれた生存の頽廃があるというコントラストだけがとらえられても、従属させられている男女の社会生活におけるヒューマニティーの課題はこたえられきれない。
こんにち純潔についていうならば、それは涙と血と泥によごれた女のこぶしで散々にうちたたかれ、くやしい足でけられ、しかし遂にその上に数万人の女が泣きふした、その人間としての純潔について以外にはない。はじめから純潔は、天使的なものなんかではなかったのだ。男に対する女の性の純潔などという局限されたものでもなかった。マグダラのマリアの物語がこのことを示している。マグダラのマリアは、迫害されながら、迫害するものの欲望のみたしてとして生きる売笑婦であった。ローマの権力に対して譲歩しない批判者であった大工の息子のイエスは、彼の意見に同感し、行動をともにするようになった漁夫のペテロそのほかの素朴な人たちとともに、苦しみのなかに生きている一人の者として、マリアを正統な人間関係の中へおくようにした。