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きずあとのはいけい

傷痕の背景

豊島 与志雄

「中央公論」1929(昭和4)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,022 字 · 38 页

青空文庫

帯びていた。そして主客顔を見合した瞬間、その軍事的なものが、互の頭にはっきりと映った。――杉本は学校を卒業した時、在学中の徴兵検査で第一乙種合格のため、兵役についての境界線に立っていたので、何等かの便宜を望んで、有吉の助力を求めに行った。すると意外にも、国民皆兵主義の理論にぶつかった。其後彼は徴集を免除されはしたが、そのため、つまらないことをしたものだと思ったのである。――有吉は其後杉本に逢うと、彼に後ればせの好意を示すためか、或は世界的思潮に共鳴してか、国費全体と軍備費との数字的比率を持出し、軍備制限の必要を説き、最小限度の軍備に就ての自説を主張した。すると意外にも、極端な軍国主義か全然の軍備撤廃か、初期マホメット教国かイワンの国か、どちらかを選択すべきだという意見にぶつかった。そして、つまらないことを云い出したものだと思ったのである。

「君とは随分、議論を闘わしたが、其後……。」言葉を切って有吉は室の中を見廻した。「相変らず勉強のようですね。……僕も、この頃、軍事の中だけに籠らないで、一歩ふみ出したいと思ってるから、君に教えを乞わなくちゃならんことも、いろいろ出てきそうで……。