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せんくてきなこてんとして

先駆的な古典として

宮本 百合子

バッハオーフェン『母権論』富野敬照氏訳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,061 字 · 5 页

青空文庫

ギリシア神話と英雄伝とを日常生活の伝統に持っていない日本人にとっては、全く訳者の云われている通り訳すにも労多く、感情をもって理解するにも当然或る困難を伴うのである。同時に、今日の世界に生きている読書人にとっては、例えばギリシア人の間で母権から父権への推移が生じた原因を、バッハオーフェンの説明したように、宗教的観念の発達した結果新しい神々が旧いギリシアの神々の間にわり込んで来て勝利したからであると考えることも、亦不可能であろう。男女相互の社会的関係が歴史的な変化をうけて「女性の世界史的敗北として」の母権顛覆が起ったのは、バッハオーフェンがエスキュロスの悲劇の章句によって説明したように女神アテネが良人アガメムノンと良人の父とを殺害した母親クリテムネストラを殺して復讐した息子オレステスを無罪にしたことから由来しているというよりは、人間の現実生活の諸条件の発達に起因しているという今日普通の観察が、より現実の姿であることを承認せざるを得まいと思う。バッハオーフェンの労作の価値及びその訳出の価値は、疑いもなく、彼以後の七十八年間の人類文明の貴重な進歩は、彼によって印された家族に関する研究の第一歩を、いかなる具体的・現実的研究にまで推し出して来ているかという、正確にしてよろこばしき知識に照りかえされて、初めて真価を発揮