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ひかりのないあさ
光のない朝
宮本 百合子
「サンデー毎日」1923(大正12)年3月20日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,418 字 · 11 页
津田との縁談は、彼が帰国してからよこした一本の手紙で、調停の見込みなく破れてしまった。同時に、彼女は、普通には希望と幸福そのものであるべき結婚ということが、自分にとっては、どんなに呪われた、恐ろしいものであるかを、性根の髄から思い知らされた。
おまきは、狂気のようになって津田を罵倒した許りか、娘の上に、神も怒らすほどの証を立てた。
「それあ、勝手な真似をなさるのもようござんすが、あれの片輪を、どうぞ後からかれこれ云わないで下さい。――娘の体のことを、母親ほど知っている者はありもしないのに……」
人々は、その言葉を、信じてよいのか、疑ってよいのか知らなかった。ほんとに「母」ならば、娘の爪の褶(ひだ)さえ知っている筈なのだから。
一旦、艶かになったおもんの髪と頬とは、また次第に色褪(あ)せて行った。彼女の存在は、再び、周囲の人々にとって、邪魔にならない手伝いの一人というに過ぎないものとなった。
おもんは、それから六年の間、老夫人が死ぬ迄、彼女の対手を勤めた。
父の家に戻って暫らくすると、今いるS製菓会社に女工として通い、月々の食費を、僅な日給の中から母に支払った。