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ひかりのないあさ

光のない朝

宮本 百合子

「サンデー毎日」1923(大正12)年3月20日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,418 字 · 11 页

青空文庫

笑うことの少い、細そりした娘として、おもんはやがて十七になった。

その年の春、彼女は不図したことから、父の真吉の知人の紹介で、或る山の手の屋敷に行儀見習いに上ることになった。

六十を越した老夫人の対手をし、おもんはそこで三年の間、倦(う)みも飽きもせず、解(ほぐ)した毛糸を巻き暮した。老夫人は、親戚でも有名な倹約家であった。暖い南の日が流れる隠居所の縁側に、大きな八丈の座布団を出し、洗濯した古靴下を解くのが彼女の日課である。

おもんは、少し離れて傍に坐り、細い頸をうつむけて、くるくるくるくるとそれを玉に巻く。戸棚の箱の中には、いつも握り拳大の玉が二十以上あった。好い加減溜ると、老夫人の故郷である岡山県の或る田舎に送ってやって、丈夫な、雑色の反物に織らせるのである。

二十一になって、初めて汽車というものに乗ったといったら、子供でも吃驚(びっくり)して笑うだろう。けれども、それが、おもんの事実であった。

その屋敷に行って四年目の桜の時、彼女は老夫人の伴をして、生れて初めての汽車旅行をした。久しく故郷に帰らなかった老夫人は、皆に勧められて、西国の花見を思い立ったのである。