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やわたのもり

八幡の森

伊藤 左千夫

「馬醉木 第三卷第一號」根岸短歌会、1906(明治39)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,396 字 · 5 页

青空文庫

ある、婆さんらしいのが表へ尻を向けて仕事をしている。家の中ではランプが今一張ついた、これが八幡神社の入口である。

二人は社に向ってゆく、空は未だ全く暗くなってはしまわぬ、右手の農家の前では筒袖をきて手拭を冠った男が藁しべなどを掃いている、左手の何か大きい四角の石で女らしいのが頻りに藁を打って居る、夜なべに縄をなうか、草履でもつくるのであろう。

それから先は両側の松林が幹を差替わす許に遠くつづいて石畳の路を掩うている、奥にはほんのり暗くて何のあるのも判らない、ただ敷石の道が白く長く帯を延した様に奥深く通じて居るのが見える許りである、予等二人が十五六間も進んで這入ってゆくと漸く前面にぼんやり萱葺の門が見えだした。

先年桃林の花を見に来た時此門前に一人の婆さんが茶を売って居ったことを思い出す、近いて見れば無論婆さんは居ない、茶店のあったらしい所には石が三つ四つ並んで居る、見たところ今でもあの婆さんが出るのかどうかは知らないが、兎に角日中は茶店がある様子だ、左右の矢大臣もそれと許りほのかに俤が見える、門を這入る、木の葉が石の上にひたに散ってある