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はっけんでんだんよ

八犬伝談余

内田 魯庵

「南総里見八犬伝 下」日本名著全集刊行会、1928(昭和3)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,945 字 · 43 页

青空文庫

ところが『弓張月』だったか『水滸画伝』だったかの時、無論酒の上の元気か何かであろう、馬琴の本が売れるのは俺の挿画が巧いからだと北斎が傲語した。さア、馬琴が承知しない、俺の本の挿画を描かせるから人からヤレコレいわれるようになったのを忘れたかと、それぎり二人は背中合せとなった。ドッチも鼻梁の強い負け嫌いの天狗同志だから衝突するのは無理はない。京伝だったら北斎に花を持たして奇麗に負けてやったろう。

が、馬琴には奇麗サッパリと譲ってやる襟度が欠けていた。奉公人にさえ勘弁出来ないで、些細な不行届にすら請人を呼び付けてキュウキュウ談じつけなければ腹の虫が慰なかったのだから、肝癖の殿様の御機嫌を取るツモリでいるものでなければ誰とでも衝突した。一つは馬琴の人物が市井の町家の型に適らず、戯作者仲間の空気とも、容れなかったからであろう。馬琴が蒲生君平や渡辺崋山と交際したのはそれほど深い親密な関係ではなかったろうが、町家の作者仲間よりはこういう士人階級の方がかえって意気投合したらしい。が、君平や崋山としばしば音信した一事からして馬琴に勤王の志があったと推断するのは馬琴贔屓が箔をつけようための牽強説である。