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ろくがつ
六月
相馬 泰三
「早稲田文学」1913(大正2)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,673 字 · 37 页
しかし彼はそんなことには頓着なく、よろよろとよろけながら一人の警官の卓の前に進んで行った、そして卓を叩いて叫んだ。
「警官、警官、私はどうしたというんです。私の身の上に一体何事が起ったのです」
事によったら、それは署長であったかも知れない、そんな風に思われる五十格好の男であった。その男は思いがけないところを驚ろかされたので、
「うむ? あ?」と、ちょっとまごついて、今まで居睡りでもしていたらしい顔をあげた。痩せてげっそりと落ちた頬辺のあたりを指で軽く擦りながらシゲシゲと彼を眺めていたが、急に大きな声を出して笑い出した。そして横手の方にある大きな板の衝立のようなものの蔭へ向って、
「奴さん正気がついたらしいや、おい、△△君、あっちへ連れて行ってどこかへ寝せてやるといいよ」と叫んだ。
年の若い、まだやっと二十二三になったかならないかの巡査が一人、佩剣を鳴らせながらガタガタと現われて来た。その若い男は、卓の男がまだ笑っているのを見ると、自分もにこにこしながら、
「気は確かかな。大変にのんだくれやがって、ざまあなかったぞ。そしてなんだ、貴様はもう少しで死ぬところだったぞ」