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ろくがつ

六月

相馬 泰三

「早稲田文学」1913(大正2)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,673 字 · 37 页

青空文庫

卓の上は南京鼠の巣でもひっくり返えしたようにどこもここも散らかっていた。原稿の書きそこないを丸るめたのや、煙草の灰、新聞のきれ屑、辞書類の開らきっぱなしになっているのや、糊壺、インキのしみ、弁当をたべた跡、――割箸を折って捨てたのや、時によると香の物の一切れぐらいおちたままになっていることも珍らしくない。――お茶の土瓶、湯呑のひっくりかえったのや、……

しかし、いずれも(今初まったことでもない)といったように、誰一人としてそんなことを気にする者もない。

曽根はさらに社員の一人一人について眺めて行った。最初に彼の目にとまったのは、彼が自分だけで「尨毛の猟犬」と仇名を与えている二面の主任のKさんであった。彼はすぐ腹の中で初めた。

(やあ、むくさん、むく毛の猟犬先生――いつも相変らずのおめかしですね。ぴかぴか光るそのお召物はそれは何という物でしょうかね。大へん粋な柄ですこと、……しかしそれにしても腰にぐるぐる巻き付けた水色縮緬の幅広なのは少々野暮に過ぎますね。そうさ、むろん安物ではありますまいとも、先生のことですもの。……えーと幾らかとおっしゃったっけね、その金時計とその黄金とプラチナとをつなぎ合わせたその鎖とは、たしか三百八十円でしたね。