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きかくとさんぞくととのさま

其角と山賊と殿様

山本 周五郎

「キング」大日本雄弁会講談社、1934(昭和9)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,948 字 · 10 页

青空文庫

賊の一人がそう云って向うへ行った。丁度そこへ戻りとみえる辻駕籠が一挺、何も気がつかずにやって来るのを、

「駕籠屋」

と呼止めた。見ると手に手に白刃を提げた怪しい者達、吃驚して逃げようとするのを、早くも前へ廻って引戻した。

「へえ、どうか生命ばかりは――」

「生命を貰おうと言うのではない、この裸を一人乗せて行くのだ」

「そんな事ならお安い御用で」

「早くしろ」

其角はその駕籠へ乗った。

「どちらまで……」

「黙って跟いてくれば分る」

賊が答えた。其角が駕籠の中から、

「茅場町へ帰るのだが」

と言ったが、誰も返辞をしない、駕籠は調子よくあがった。

駕籠は右へ曲ったり左へ折れたりしながら長いこと進んで行った。左右には例の賊がついているらしく、お頭がどうしたとか、昨夜は若い娘の生胆をぬいたとか、今夜の生贄は五人だが、丁度これで五人目だから、これで役目も終った、あとは掠って来た例の女を肴に朝まで呑み明そう――などと、不気味なことを低い声で話し合っている。

――これはどうやら賊の家へ連れて行かれるらしいぞ。

と思ったから、折があったら救いを呼ぼうと、外の気配を伺っていると、番所へでも来たらしく、咎める声がした。