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くらのすけるす
内蔵允留守
山本 周五郎
「キング」大日本雄弁会講談社、1949(昭和15)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,082 字 · 24 页
」
「…………」
「先日、岡田さまは私の言葉を咎めて、兵法は無用のものかと仰しゃいました」
老人は暫くして再び続けた。
「仰せの通りです、若し耕作の法を人の教えに頼るような百姓がいたら、それはまことの百姓ではありません、いずれの道にせよ極意を人から教えられたいと思うようでは、まことの道は会得できまいかと存じます、銭を掠って逃げたあの浪人共が、そのよい証拠ではございませんか」
虎之助の背筋を火のようなものが走った。言葉や姿かたちではない、静かな、噛んで含めるような老人の声調を聴いているうちに、彼はまるで夢から覚めたように直感したのだ。
――此の人だ、別所内蔵允はこの人だ!
そう気づくと共に、虎之助は庭へとび下りて、土の上へ両手を突いた。
「先生……」
老人は黙って見下ろした。
虎之助は全身の神経を凝集してその眼を見上げた。かなり長いあいだ、老人は黙って虎之助の眼を瞶めていたが、やがてその唇ににっと微笑を浮めた。
「内蔵允は留守だ」
「先生!」虎之助は膝をにじらせた。
「いやいや、もう二度と帰っては来ないかも知れない、それでもなお此処に待っているか、虎之助」
「私に百姓が出来ましょうか」