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くらのすけるす

内蔵允留守

山本 周五郎

「キング」大日本雄弁会講談社、1949(昭和15)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,082 字 · 24 页

青空文庫

向うにいる連中が悪口を叩いた。虎之助は呆れた、そして怒るよりも寧ろ笑いたくなった、こんな相手と押し問答をしてもしようがない、「では、また改めてまいるとしましょう」そう云って彼はしずかに踵を返した。

遠慮もなく罵り嗤う声を聞流して、森蔭の径を戻って来ると、先刻の老農夫はまだせっせと鍬を振っていた。虎之助は礼を述べて行過ぎようとしたが、その老人は鍬の手を休めながら、

「どうなされました」と不審そうに訊いた、「……先生のお帰りをお待ちなさるのではなかったのですか」

「その積りでいったのだが」

「暴れ者になにか云われましたか」老人は案の定という笑い方をした、「……あのやまだち共は手に負えぬ奴等じゃで、まあ喧嘩もせずに戻って来られたのがなによりでござりましょう」

「御老人も知っておられるか」

「留守番の弥助どのからよく聞きまするし、此の辺をのし歩くので顔もよく存じております、あのようなあぶれ者が殖えるばかりで困りものでござります」

虎之助は去ろうとしたがふと、

「御老人」と思いついて云った、「……実は、先生のお帰りまで待ちたいので、ぜひこの付近に宿を借りたいと思うのだが、むろん雑用は払うしどんな家の片隅でもよい、置いて呉れるところは有るまいか」