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かんこんそうさいはかせ

冠婚葬祭博士

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1937(昭和12)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,762 字 · 30 页

青空文庫

と清水君が囁いた。

「もう宜いです」

「いや、あれですよ」

「何ですか?」

「あの丸髷です」

「さあ」

「似合うでしょう?」

「厳しいですな。ハッハヽヽ」

と僕は笑ってやった。

「然ういう意味じゃないです」

「それじゃ何ういう意味ですか?」

「仮髪ですよ、あれは」

「はゝあ」

「而も借物です。実はもう仮髪屋が取りに来る時分ですから、急いで今晩御招待したんです」

「成程」

「大義名分でも何でもありません。ハッハヽヽ」

そこへ奥さんが戻って来て、

「失礼致しました」

と会釈をして坐った。僕は丸髷を凝っと見てやった。それは清水君が僕を担ぐ為めに嘘をついたのかと思われるくらい精巧なものだった。しかし仮髪と知っていると、生え際あたりが何となく不自然だった。奥さんは無論御主人が秘密を洩らしたことを知らない。僕に御覧下さいと言わないばかりに、彼方を向いたり此方を向いたりした。

「クックヽヽヽ」

と僕は吹き出してしまった。

「何うしたんですか?」

「クックヽヽ。又噎せました」

「いけませんね」

と清水君は目で物を言った。仮髪の話は内証という意味だったろう。僕は笑いを咳に紛らしたが、以来男性よりも女性の方が遙かに横着だという信念が固まってしまった。