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かんこんそうさいはかせ

冠婚葬祭博士

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1937(昭和12)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,762 字 · 30 页

青空文庫

しかし家へ帰ると出直すのが面倒ですから、妻にこゝまで来て貰ったのです」

「はゝあ」

「お察し下さい。お互に一刻も早く顔を見たいのですが、人目がありますから、会社の玄関まで来て貰う次第に行きません。それで有り得る中で一番近い而も一番安全な地帯で待っていて貰ったのです」

「成程」

「しかし蛇の道は蛇です。忽ち看破されてしまって、延っ引きならないところを取っ捉まりました」

「いや、僕は決してつけて来たんじゃありませんよ」

「ハッハヽヽ。冗談ですよ。しかし御内聞に願います。皆実に口うるさい連中ですからな」

「大丈夫です。それではお先に」

と僕は急いで切り上げた。相手はもっと喋りたそうだったが、奥さんの顔に迷惑の色が読めたのである。つけて来たように思われては好い迷惑だ。此方は名前も知らないのだから、興味も関心もある筈がない。

「君、君」

と翌日執務中に隣席の清水君が囁いた。この人には初めから世話になっている。

「何ですか?」

「昨日大谷君の帰りをつけて行ったんですってね?」

「つけて? あれは違います。そんなことありません」

「いや、この塩梅じゃ僕もつけられているだろうから警戒するようにって注意でした」