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ふゆのほうりゅうじもうで

冬の法隆寺詣で

正宗 白鳥

「読売新聞」1958(昭和33)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,358 字 · 5 页

青空文庫

初冬の日は静かである。参拝者は三四人に過ぎない。「冬枯や奈良にはふるき仏達」か。「冬の日や奈良にはふるき仏達」か。しかし、私はお寺まいりをし、仏様を見て歩いて、仏心を起すのではない。でも、仏様を見ていると、不思議にいい気持がするのであった。時々は、いい気持よりまずい気持にされることもある。金堂も美術品保存の主旨から面目を新たにされているが、昔のような神秘縹渺の趣は無くなった。薄暗いところで、漠然とした壁画を見詰めて、幼な心に空想していた極楽世界を夢見ることも出来なくなっている。金堂の壁画は、破損崩壊をふせぐために、近所の倉庫に移されているのである。そして、釈迦浄土も薬師浄土も明るい光に照らされている。明るい所に陳列されているので、画面がよく分るのだが、極楽浄土としての恍惚境は、この倉庫に展示されている壁画からは感ぜられないのである。全体、古風な浄土観なんかは現代人の頭脳には消滅しているのであろうから、金堂の壁画だって時の流れにつれて崩壊の運命を持っているのなら、崩壊にまかせたらよさそうにも思われる。移るものの移るにまかせ、亡びるものの亡びるに任せるのが、仏教の精神であるまいか。