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とううん
凍雲
矢田 津世子
「婦人文芸」1934(昭和9)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,121 字 · 29 页
その工場がこの不景気で危くなったときいて、あぶらやでは急きはじめた。すぐ返済してくれ、さもなければ裁判にかけると威かしたという。そんなことから、お高の父親は肚を立てて、お高を連れ戻した――と、これは畳屋の話である。
「いやあ、その県下の工場へは、菅原さんが出したって話だがね。そいつがどうも、保険料を融通したんで、その埋合せをあぶらやに頼んだところが、約束ばかりでね。さっぱり金の面こをみせてくれねえもんで、菅原さん、肚たてたんだな。肚立てるのも無理がないさ」
戸籍係りの時二郎が物識り顔で言った。みんなは、どっちにも信をおきかねたが、菅原と同じ役場に勤めているという訳からも、時二郎の言葉の方を重く聴いた。
お高の父親の菅原孫市は、役場の収入役を勤めるかたわら、保険会社の代理店をも引きうけていた。これ迄も、使い込みがばれて、会社との間にいざこざがあったけれども、その都度、町長が仲に入って、取り纏めてきたという噂も立っていた。
つまった煙管を真っ赤になって吹き通していた親方は、吻っとひと息いれて、
「可哀相なのはお高さんだなあ。あんな縹緻よしがさ。どうだ、時さん、ひとつ、あたってみないかい」