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とううん
凍雲
矢田 津世子
「婦人文芸」1934(昭和9)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,121 字 · 29 页
先生は口元で笑った。
「仙太さん、矢っ張り忘れかねるんだな」
「あ、どうしても高と一緒になりたいです」
仙太は生真面目に応えた。そして、詰め衿を着た先生が帽子に手をあてたままだんだん小さくなって行くのを、陽の翳った寒さの中で、いつまでも見送っていた。
外は暗く、ひどい風になっていた。
床屋の店には、近所の人たちが集まって、雑談をしたり将棋をさしたりしていた。親方自身は、黄色く汚れた前垂れをかけたなり、鉈豆煙管を咥えて新聞を読んでいた。にぶい十燭光がひとつ点っていた。
「若夫婦世の無情を恨んで……なんだと、県下でまた心中があったとよ……」
親方は煙管を置いて、新聞の上に肉づきの好い手をあてがって、声を出して読みはじめた。
畳屋が乗り出した。
「心中ていえあ、俺んとこみてえに女蛙ばかり殖えちゃあ……なあ、親方、それこそ親子心中でもしなけあならねえして」
「あぶらやさ下女にやったら? この頃あ、手不足で、下女探してるって話しだよ」
「あぶらやも竈大きくしたもんだな。この節あ、県下の工場さ迄貸し付けてるって評判だぜ」
将棋の手を休めずに、指物屋が口を挟んだ。
「三浦の家の山なあ、みんな買い取ったって、役場の時さんが言ってたよ」