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れつのこころ

列のこころ

宮本 百合子

「大陸」1940(昭和15)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,148 字 · 11 页

青空文庫

この春ごろだったか、作家の武田麟太郎氏が、或る短い文章のなかで、何をッの意気について書いていられた。乗物の中へ一人の男が入って来た。そして、或る夫婦ものとそのとなりの勤人風の男との間にある僅の隙間へ、ぎゅっとわり込んだが、もとより大人一人分には無理なところだから、夫婦ものも迷惑そうにするし、勤人もそりゃ無理だという気持を示した。だが言葉に出しては云わない。すると割込んだ男は夫婦ものに向って何をッという気勢を示し、次に勤人に向って、何をッという威脅を示し、完全に一人分の席を占めてしまった。その仔細を見ていた武田氏は、この意気だ、と感服したということがかかれていた。

この武田氏の感服をそれだけの意味でとることは、恐らく筆者自身の希望ではないのだろうとも思う。文学というものに絡めて含蓄されているものもあるだろうけれども、列の心理をいろんな面から考えてゆくと、やっぱり或る対比として心に浮んで来る。何をッという気勢は云わば互の気力の渡り合いで、気力のきついものが、時によっては理非をこえて勝をしめる。列の前期の世相の殺気めいたものだと思う。

列の感覚というものは、どうやら違うようだ。