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れつのこころ
列のこころ
宮本 百合子
「大陸」1940(昭和15)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,148 字 · 11 页
岸田国士氏は、日本人が列のきびしさを知らず、前へわりこまれてもそれを黙っていることを非難しておられた。これを逆に云えば、列というものは、それが列だからという理由で、見知らない人が見知らない人に向って、列からはみ出してはいけません。勝手に前へ入ってはなりません。一番しまいの方に廻りなさい、と指図し或る意味では指導し世話をするとともに世話をも焼く権利のようなものを互に認めあうものだということになる。各人の生活の実体は列に立ったとき、最も単一な面で均等されるわけである。列の心理の一面には、俺だろうがどこの誰様だろうが、というところがある。そして、何となしほかのひとのことに口出しをするのが面映ゆくなくなるような心理の傾きは興味ふかく注意をひかれる。
街の風景に列のある時代の空気は、ものの考えかた感じかたにも列のような癖をつけて、専門外のことへも専門外の人間が口出しをして一向我から怪しまなくなって来る。つまり列の自信がのりうつるのだろう。列を何故つくっているかという理由の大きく深い根源をとかく忘れて、列に立つ自信ばかりが自己目的めいて正面にはびこることは、果して誇りとしていいのだろうか。