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しょとうのにっきから
初冬の日記から
寺田 寅彦
「中央公論」1934(昭和9)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,930 字 · 20 页
そこでダンサーに身の上話をさせることによって悪漢騎手の旧情夫の存在を観客に呑込ませる。そうして後に不利な証拠物件を提供するためにダンサーの指環を靴磨きに贈らせ、靴磨きの金鎚をその部屋に遺却させる。彼等のアパートにおける目撃者としてアパートの掃除婦を役立たさせるためにわざわざ浅岡に水を汲みにやって廊下でこのおばさんに出逢わせておく必要のあることは勿論である。
浅岡田代が去ったあとへ悪漢旧情夫が登場するのであるが、しかし彼がいよいよダンサーを殺す残酷な現場は電気係が配電盤のスウィッチをひねって綺麗に消してしまう。殺す理由がどうもはっきりしないが、とにかく殺せばそれでよいのである。さて、この真犯人の姿と顔とを誰かにこの現場近くではっきり見届けさせておかないとあとで困る。しかしまた、この一番大切な証人は最後の瞬間までかくれて出頭しないようにしておかないと工合が悪い。そうしないと早く片がつき過ぎて困るのである。そのためにこの証人には何かしら少し後ろ暗い所業を、しかもこの事件に聯関してさせておかないと都合がよくない。それかと云ってあんまり悪い事ではまた困るのである。