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しょか(せんきゅうひゃくにじゅうにねん)
初夏(一九二二年)
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年5月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,549 字 · 8 页
愉しい 心ときめく醗酵の時にある。
一旦 心の扉が開いたら
此上に
私の創る世界が湧上ろう。
一滴 一滴
水の雫が金剛石の噴水を作るように
一字一字
我書く文字の間から
生き、泣き、笑い、時代を包む人生が
読者の胸に迫るのだ。
ほの白い原稿紙
午後五時のひかり
暫く その意味深い空虚のままに居れ。
やがて お前等は
繰れど、繰れど
つきぬ 人類の喜怒に
愕き 畏れて 静かなケイを震わせる時が来るだろう。
八月三十日
不図 軌道を脱れた 星一つ
宏い 秋の空間を横切って
墜ちた。
何処へ行くのか――
自然は息をひそめ
その青白き発光体の尾を凝視る。
何処へ落ちようと云うのか――
私は 知って居る。
自ら わが心の流れよる
かの遠い 遠い 樹林の蔭に
青春の
落ちた 星はあるのだ。
パンよ!
パンよ! パンよ!
快活な古代のパン!
どうぞ お前の愉快な 牧笛で
わが 胸を浄めて呉れ
この寂しい微笑を忘れさせて呉れ
一生の恋 わが愛
わが愛はあわれな〔五字分空白〕となる。
憤りもし得ず、わが痴かな恋人の面影も 忘れ得ず
身を喰う苦しさが
しんしんと魂にしみ入るのだ。
ああ 昔の無心が欲し
(十八歳の理性!)