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わかれのじ

別れの辞

豊島 与志雄

「中央公論」1935(昭和10)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,330 字 · 37 页

青空文庫

そんなことと全く関係のない、何か別な、僕たちが全然知らないような、何かがあるんじゃないでしょうか。僕には変な予感がするんだ。ねえ、あなたは知ってるでしょう。知ってたら僕に教えて下さい。島村さんは僕が最も尊敬してる人の一人だ。僕の芸術を理解してくれてる人の一人だ。いや、僕の好きな人なんだ。愛してる人と云ってもいい。その人が、この頃、僕の手の届かないところに行ってしまった。何かがあるに違いない。こないだ、酔っ払った時、きたないことはよせと云ってステッキで僕をなぐったことがある。その、きたないことっていうのが、全然肉体的の意味なんだ。だが、僕のどこが一体きたないんだ。僕の肉体のどこがきたないんだ。ねえ、どこがきたないんです。はっきり云って貰おうじゃありませんか。僕の身体がきたないとすれば、静葉の体臭のしみこんでる島村さんの身体なんか、もっときたないじゃないか。然し僕は、そんなことは問題にはしない。問題は……つまり、肉体的にきたないなんてことを云う、その言葉が、ばかに精神的だというところにある。肉体的なことについて精神的な云い方をする、そこが問題だ。たしかに、島村さんはどうかしている。