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わかれのじ

別れの辞

豊島 与志雄

「中央公論」1935(昭和10)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,330 字 · 37 页

青空文庫

何かあるんだ。近頃、小説を書いてるというじゃありませんか。」

この最後の一句を、宮崎は声をひそめて、さも重大事らしくゆっくり云った。そして口を噤んだ。私はばかばかしくなった。島村が小説を書こうと書くまいと、そんなことこそ、どうでもいいことだった。それに第一、島村は時々文芸批評なんか書くことはあっても、あの哲学的な理知的な頭で、どうして小説なんか書けるものではない。彼が小説を書いてるとか、そしてそれにさも重大な意味があるらしく考えたりするのは、小説家たる宮崎の空想にすぎない、と私は思った。だが宮崎は、そのことを私によく考えて貰いたいとでもいうように、そして自分でも考えながら、暫く口を噤んでいたが、またふいに云い出した。

「たしかに、島村さんには、何かあるにちがいない。それだから、僕のことだって誤解してるんだ。僕がいつ、不潔なことをしたか、さあそれを証明して貰いたいものだ。僕が清子を愛してるかどうか、それを証明して貰いたいものだ。行こう……。事実が証明してくれる。さあ、笹本に行こう……。」

そんなわけで、私と宮崎とは遅くなってから「笹本」に行った。行ってみると、長尾と大西とが奥の室で飲んでいた。