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わかれのじ

別れの辞

豊島 与志雄

「中央公論」1935(昭和10)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,330 字 · 37 页

青空文庫

私と宮崎がやってくると、おけいは愛想よく立って来て、饒舌りちらしながら五六杯応酬をして、それから清子と代った。清子はいきなり宮崎のそばにわりこんできた。

「あら、随分飲んでるわね。」

「当り前さ。酒でも飲まなきゃ、やりきれないんだ。」

大西が、酔眼を据えて、苦笑した。

「それ見ろ、また一人ふえた。実際酒でも飲まなきゃやりきれない、そういう連中が次第に多くなっていくじゃないか。だから僕は、造り酒屋になろうというんだ。今に資本が出来たら、日本一のうまい酒を、日本一に安く飲ましてやる。これが一番効果的な、直接的な、社会奉仕だ。」

清子はじっと宮崎の方を見てみた。

「何だか……変よ。」

「ああ……僕は逢いたい人があるんだ。」

宮崎は突然叫びだして、ふらふらと立っていった。帳場でお燗番をしていたおけいのところに行って、身を投げだした。

「僕は逢いたい人があるんだ。」

「おい、宮崎、道化たまねはよせよ。」と大西が向うから呼びかけた。「古風な恋愛のまねごとなんかするなよ。……さけはなみだかためいきか……。」

歌の調子が皮肉に響いたらしい。宮崎は戻ってきて、飲み始めた。然し、暫くたつと、また思い出した。