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わかれのじ

別れの辞

豊島 与志雄

「中央公論」1935(昭和10)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,330 字 · 37 页

青空文庫

人連れて、「笹本」に敬意を表しに来たものである。そして奥の室で飲んでるところに、少し酒気を帯びた静葉が、元気よくとびこんできた。今晩は、おばさあん……。そして私達の方を見ると、つんとしたお辞儀をした。用があるのよ……。彼女はおけいと、何かひそひそ話をしていた。だいぶかかった。

「そんなら、今だっていいわ。呼びましょうか。いらしてるのよ。」

「まあ、この人は……。」

静葉は電話にかかった。

私は彼女の方に注意をむけていた。あれきり島村に逢わないので、少々気になっていたのである。注意してると、静葉は島村からことずかって勘定を払いに来たものらしく、またおけいは、島村に逢いたいことがあると頼んだらしい――多分宮崎のことについてだろう。私は肩の荷が軽くなるのを覚えたが、また不安にもなった。

静葉はやがて私達の方へ来た。彼女はいつ見ても少しも変らなかった。顔のわりに眼も鼻も口も小さいので、少し痩せたらもっと綺麗になるだろうと思われるくらいに肥ってる、大柄なぱっとした女で、あけすけで、影もなく、底もなく、捉えどころがなく、そして朗かで、そのくせ調子に一寸険のある女だった。