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しせい

刺青

谷崎 潤一郎

「新思潮」1910(明治43)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,651 字 · 12 页

青空文庫

と、娘は青褪めた額を擡げて云った。

「この絵の女はお前なのだ。この女の血がお前の体に交って居る筈だ」

と、彼は更に他の一本の畫幅を展げた。

それは「肥料」と云う畫題であった。畫面の中央に、若い女が桜の幹へ身を倚せて、足下に累々と斃れて居る多くの男たちの屍骸を見つめて居る。女の身辺を舞いつゝ凱歌をうたう小鳥の群、女の瞳に溢れたる抑え難き誇りと歓びの色。それは戦の跡の景色か、花園の春の景色か。それを見せられた娘は、われとわが心の底に潜んで居た何物かを、探りあてたる心地であった。

「これはお前の未来を絵に現わしたのだ。此処に斃れて居る人達は、皆これからお前の為めに命を捨てるのだ」

こう云って、清吉は娘の顔と寸分違わぬ畫面の女を指さした。

「後生だから、早く其の絵をしまって下さい」

と、娘は誘惑を避けるが如く、畫面に背いて畳の上へ突俯したが、やがて再び唇をわなゝかした。

「親方、白状します。私はお前さんのお察し通り、其の絵の女のような性分を持って居ますのさ。―――だからもう堪忍して、其れを引っ込めてお呉んなさい」

「そんな卑怯なことを云わずと、もっとよく此の絵を見るがいゝ。