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こくこく

刻々

宮本 百合子

「中央公論」1951(昭和26)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,401 字 · 73 页

青空文庫

娘さんは、うけ口の顎を掬うように柱時計を見上げ、

「ひどいわ」

と云った。

「八時頃来るから、そうしたらすぐ帰してやるって云った癖して!」

朝の六時頃、いつものとおりに弁当をつめて何の気もなくいざ会社へ出かけようとしているところへ、駒込署だとやって来てそのままひっぱって来てしまったのだそうだ。父親が、偽者かもしれないと心配して警察まで送って来たのだそうだ。

「なんて人馬鹿にしてるんでしょ」

怒って云って、又袂をかき合わせ下を向いた。

昼になっても警視庁などからは来ない。小使いが、ヒジキの入った箱弁当を娘さんの分も床へ置いてゆくと、それを見て急に泣き出した。

自分は、

「泣くのやめなさいよ、ね。あなたの持ってるお弁当を食べたらいいのよ」

娘さんは、やっと蓮根の煮つけが赤漬ショウガとつけ合わせてあるアルミの弁当をひらいたが、ところどころ突ついたきり、湯ものまぬ。

午後第一房の強盗が保護室へうつされ、数日ぶりで自分たちは監房へ入れられた。

娘さんは、帯もしめたままなので段々気がおちつき、

「警察なんて人ばっかり騙してる!」

そして、ひそめた声に力を入れ、

「ね、一寸! どうしましょう、憎らしいわね。