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こくこく

刻々

宮本 百合子

「中央公論」1951(昭和26)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,401 字 · 73 页

青空文庫

電球はいきなりむき出しに、廊下に向う金網の鉄の外枠から下っているのだが、それにはどういう訳か、駒込警察署と、字だけクモリで入れてあるのだ。

あっちこっちの監房で身じろぎや、あくび、寝入る前の動きがある。何十日でも、日光の射さぬ板の間に坐ったぎりでいるから、体を横にするだけでさえ、手足がくつろぐのであった。

不図太鼓の音が南京虫にくわれて痒い耳についた。ドーン、ドン。ドン、ドン……段々近づいて来るのをきくと、それはキリスト教の伝道であった。益々早く太鼓をうち、何とかして、

信ずるものは誰れェも

みィな救ゥくわるゥ

急に止って歌をやめ、

「みなさァん」

声のわれた、卑俗な調子で短い演説のようなことをやったかと思うと、すぐドーンドーンドンドンドンと太鼓が鳴り出し、宵のざわめきを越えて、

信ずるものは誰れェも

と再び同じ歌が進行して来る。近所の教会の連中と見え、子供がたかって意味も知らずに声を張りあげ無味乾燥な太鼓に追いまくられるようにしながら、

みィな救くゥわるゥ――

と歩いている。留置場の横通りのところで暫くわざとのように太鼓をうっていたが次第に遠のき、今度はやっと聞えるか聞えないところで、