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こくこく
刻々
宮本 百合子
「中央公論」1951(昭和26)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,401 字 · 73 页
「そこへかけて」
顎で椅子をしゃくった。自分は腰をおろした。縞背広は向い合う場所にかけ、
「警視庁から来た者だ、君を調べる!」
「――そうですか」
それきり何も云わず、ポケットから巻煙草を出して唇の先へ銜え、マッチをすり、火をつけると、一吹きフーと長く煙をはいた。その手がひどく震えて居る。煙草の灰がたまりもしないのに三白眼でこっちを睨みつめながら指先をパタパタやって灰をおとす。その手も震えている。
目をうつすと、テーブルの脚のところに何本もしごいた拷問用の手拭がくくりつけてある。――いきなり、その一寸した隙に飛びかかるような勢で、
「何だ! その椅子のかけようは!」
と呶鳴った。自分は、普通人間が椅子にかけるようにゆったり深く椅子の背にもたれてかけていたばかりだ。
「ここをどこだと思ってる! 生意気な! 警察へ来たら警察へ来たらしくするんだ!」
吸いかけた煙草を床の上へすて、靴の先で揉み消し、縦に割れた一尺指しをテーブルの上からとり、それで机にかけていた私の肱を小突いた。
「大体貴様は生意気だ。こっちが紳士的に調べてやっても一向云わんそうだから、今日は一つ腕にかけて云わしてやる! 君達ァ白テロ白テロってデマるから、一つその白テロをくわしてやるんだ」