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ぜんきてんまやけ
前記天満焼
国枝 史郎
「文芸倶楽部」1927(昭和2)年6月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 48,568 字 · 98 页
グッと睨んだが考えた。
「待てよと……オ、茨木! 茨木!」
「は」と云いながら進み出たのは、いましがた鞘ぐるみ刀を出し、源三郎をからかった、浪人風の男であった。
「たしかこいつは。……この若造は……加賀屋源右衛門の倅だったの?」
「は、さようでございます」
「よし」と云うと有意味に笑った。
「飛び込んで来た、よい囮が! 今まで迂濶りしていたよ。……何よりの玉だ、こいつを利用し……」
呟くと一緒に突き飛ばした。
突かれて蹣跚いた源三郎は、ドンと壁へぶつかったが、充分の恐怖、充分の怒り、しかし依然として心は夢中で……
「汝は、汝は!」と匕首を揮った。
「ホッ、ホッ」という例の笑いと共に、入身となった鮫島大学は、グッと拳を突き出した。
「ムーッ」とこれは源三郎で、泳ぐような手付きをしたかと思うと、グニャグニャになってぶっ仆れた。
「悪い格好で寝ているよ。大金持の若旦那も、からきしこうなっちゃア見られないなあ」
懐手をした鮫島大学は、見下ろしてこう呟いたが、
「おい茨木、考えがある。この態の悪いお客さんを、じめつく地下の物置で、大して大事にしなくともいいが、とにかく介抱してやってくれ。