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ぜんきてんまやけ

前記天満焼

国枝 史郎

「文芸倶楽部」1927(昭和2)年6月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 48,568 字 · 98 页

青空文庫

石榴石から花が咲いて、その花の芯は茴香色で、そうして花弁は瑪瑙色で、でもその茎は蛋白石の、寂しい色をして居ります。そういう花も見られましょう。……そこは異国でございました。そこは上海でございました。その裏町でございました。一人の女が誘拐され、密房の中へ閉じ籠められ、眠らされたのでございます。黒檀の寝台には狼の毛皮。でその毛皮の荒い毛が、体の肉を刺しました。菱形の窓から熟んだ月が、ショボショボ覗いて居りました。猫目石のような月の眼が、女の胸を探りました。とどうでしょうお月様の眼が、潰れてしまったではございませんか。胸の辺りに刳られた穴が、龕のように出来ていたからです。それを見たからでございます。それで吃驚してお月様の眼が、潰れてしまったのでございます。……誰が刳ったのでございましょう? 青々と光るものがある! 鉛で作った大形の、偃月刀でございます。柄に鏤めたは月長石と、雲母石とでございました。それで刳ったのでございます。可哀そうな可哀そうな女の胸を! でもその間その女は、歌をうたって居りました。大変いい声でございました。だが本当に美しいことは、その歌声が熱のために、凍ってしまったことでございます。