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ぜんきてんまやけ

前記天満焼

国枝 史郎

「文芸倶楽部」1927(昭和2)年6月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 48,568 字 · 98 页

青空文庫

「なるほどね、なるほどね」

「つまりそれっきり消えましたそうで」

「なるほどね、なるほどね」

「ところがもう一つ不思議なことには……」

「はいはい、不思議が、もう一つね」

「その夜若旦那も帰りませんそうで」

「へーい、なるほど、源三郎さんもね」

「親子行方が知れませんそうで」

「それは、まあまあ大変なことで」

聞いているのは岡引の松吉で、その綽名を「丁寧松」といい、告げに来たのは松吉の乾兒の、捨三という小男であった。

所は神田連雀町の丁寧松の住居であり、障子に朝日がにぶく射し、小鳥の影がぼんやりとうつる、そういう早朝のことであった。

捨三が旨を受けて行ってしまうと、丁寧松は考え込んだ。

その時お勝手から声がした。

「何だいお前、お菰の癖に、親分さんに逢いたいなんて」

ちょっと小首を傾げたが、ツイと立ち上った丁寧松は、きさくにお勝手へ出て行った。

「お梅さんお梅さんどうしたものだ、お菰さんだろうと何だろうと、お出でなすったからにはお客さんだよ。不可ない不可ない、粗末にしては不可ない」

下女のお梅をたしなめたが、ヒョイと丁寧松は眼をやった。乞食が勝手口に立っている。

「これはいらっしゃい。