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ぜんきてんまやけ
前記天満焼
国枝 史郎
「文芸倶楽部」1927(昭和2)年6月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 48,568 字 · 98 页
「誰にな?」と鉄之進は不思議そうにした。
「例の柏屋の明けずの間の。……」
「うむ邪教徒の一味にか」
「はい左様でございます」
「よし」と云ったが鉄之進は、刀の下緒を引抜いた。
「今朝方約束したはずだ、場合によっては助けようと」
「それではお助け下さるので」
「拙者にも縁のある奴原だ。と云うより拙者の先生に、深い縁故のある奴だ、退治れば先生のお為にもなる。――其方は逃げろ! 一人で十分!」
キリキリと下緒で綾を取る。
「それでは」と云って駈け抜けようとした時、裏へ廻った狂信者の群が、ムラムラとこっちへ寄せて来た。
「いけねえ」と喚いて岡引の松吉が、往来の方へ走ろうとした時、青白い龕の光が射し、お久美を先頭に狂信者の群が、ながれるように入り込んで来た。
「こっちもいけねえ」と喚いたが、
「ここは加賀屋か、急場のしのぎだ」
壁へ手を掛けると身を躍らせ、飜然と裏庭へ飛び込んだ。
「誰だ!」と鋭い声がしたが、蔵番の東三の声らしかった。
「シッ、野暮な、大声を立てるな! ……よッ手前は大学一味の」
「何を! 手前は?」
「丁寧松だア」
格闘をする音がしたが、つづいて松吉の声がした。
「蔵の戸が開いてる! や、死骸! しかも二人だ! こりゃア大変! ……息がある息がある虫の息だ!」