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けんきょう

剣侠

国枝 史郎

「山形新聞」1936(昭和11)年3月~8月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 156,961 字 · 310 页

青空文庫

床から独楽を拾い上げ、顫えを帯びた含み声で、こうテレ隠しのように口上を述べ、源女が芸を続け出したのは、それから直ぐのことであった。

これがかえって愛嬌になったか、見物は湧きもしなかった。

その後これといって失敗もなく、昔ながらに鮮かに、源女は独楽を自由自在に使った。

一基の燈籠に独楽が投げ込まれるや、牡丹が花弁を開くように、燈籠は紙壁を四方に開き、百目蝋燭を露出させ、焔の先から水を吹き出し、つづいてもう一基の燈籠の中から、独楽が自ずと舞い上り、それを源女が手へ戻した途端、そのもう一基の燈籠も、紙壁を開き水を吹き出した。この最後の芸を終えて、悠々と源女が舞台から消えると、見物達は拍手を送った。

浪之助は小屋を出て、裏木戸の方へ廻って行った。

「久しぶりだな、爺つぁん」

木戸口にいた爺さんへ、こう浪之助は声をかけた。

「へい」と木戸番の爺は云った。

「これは杉様で、お珍しい」

「たっしゃでいいな、一年ぶりだ」

「旦那様もおたっしゃのご様子で」

「源女が帰って出演ているようだな」

「よくご存知で、ほんの昨今から」

「ちょっと源女に逢いたいのだが」

「さあさあどうぞ」と草履を揃えた。