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けんきょう

剣侠

国枝 史郎

「山形新聞」1936(昭和11)年3月~8月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 156,961 字 · 310 页

青空文庫

鳳凰と麒麟

1

それから幾日か経った。

秋山要介は杉浪之助を連れて、秩父郡小川村の外れに、あたかも嵎を負う虎の如くに蟠居し、四方の剣客に畏敬されている、甲源一刀流の宗家逸見多四郎義利の、道場構えの広大な屋敷へ、威儀を作って訪れた。

「頼む」

「応」と返事があって、正面の襖が一方へひらくと、小袴をつけた若侍が、恭しく現われた。

「これはこれは秋山先生、ようこそご光来下されました」

「逸見先生に御意得たい。この段お取次下されい」

「は、先生には江戸表へ参り、未だご帰宅ござりませねば……」

「ははあ、いまだにお帰りない」

「帰りませんでござります」

「先生と一手お手合わせ致し、一本ご教授にあずかりたく、拙者当地へ参ってより三日、毎日お訪ねいたしても、そのつどお留守お留守とのご挨拶、かりにも小川の鳳凰と呼ばれ、上州間庭の樋口十郎左衛門殿と、並び称されている逸見殿でござれば、よもや秋山要介の名に、聞き臆じして居留守を使われるような、そのようなこともござるまいが、ちと受取れぬ仕儀でござるな」

洒脱であり豪放ではあるが、他人に対してはいつも丁寧な、要介としてはこの言葉は、かなり角立ったものであった。