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けんきょう

剣侠

国枝 史郎

「山形新聞」1936(昭和11)年3月~8月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 156,961 字 · 310 页

青空文庫

勿論邪道の悪剣ゆえ、正当の名称はござらぬが、彼自身勝手に附けたものと見えます。……まずこう中段に太刀を構える」

こう云いながら要介は、白扇を取るとグッと構えた。一尺足らずの獲物ながら、名人の構えた扇であった、浪之助にはその扇が、差しつけられた白刃より凄く、要介の躰がそれの背後に、悉皆隠れたかのように思われた。

「と、こうグ――と左斜に、太刀を静かに引くのでござる」

云い云い要介は扇を引いて見せた。

「さながら水の引くが如く。……云う迄もなく誘いの隙じゃ。……誘いの隙じゃと知りながらも、百人が百人それに乗り、一歩踏み出すか打ち込むかする。……と、その機先を素早く制し……柳生の業車ノ返シ、そいつでこう一旦返す」

扇をクルリと下返しに返した。

「ハッと相手が動揺した途端、間髪を入れず下手ノ切、甲源一刀流の下手ノ切……」

こう云うと要介は左膝の辺りまで、扇を引き付けて八双に構え、すぐに刎ね返して掬い切りをした。

「こいつで来るのじゃ、さようこいつで。……下れば足、上れば胴、もう一段上れば顎へ来る……必ずやられる、必ず切られる」

「しかしそのように解って居りますれば、その術を破る方法が、いくらもあるように存ぜられますが」